漫画やアニメが好きです。主にNARUTOを語っています。たまに二次創作もしてます。初めてきた方は「はじめに」を読んで下さい。
※現在ほぼ更新停止状態ですが管理人は元気です。
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趣味:
妄想
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2016/03/31 (Thu)
春野サクラは多忙であった。任務に修行。家事手伝い。ほんの少し前までは生活の一部であったオシャレや甘味に掛ける時間が見つからない。しかしこれもまた、ほんの少し前までの自分には考えられなかったことであろうが、不思議と苦痛ではないのである。もちろん大変は大変だ。伝説の三忍である師匠の言葉は厳しく、基礎体力からして明らかに足りていなかった彼女にはキツイ稽古とお叱りの連続。だが頑張れた。元々チャクラコントロールだけは人並み以上だと褒められてきたのだ。精密さを求められる修行で音を上げずにいられたのは、知人の励ましや己の決意もさることながら、やればやるだけ成果が目に見えたのが大きかっただろう。
そんな彼女は、今、ふらりとあうんの門へ近付いていた。日は傾いていて、橙色が目に眩しい。今日の修行はつい数分前に終了したばかりだ。体力は底をついている。こんな日は家に、延いてはお風呂場に直行するべきだ。師匠との修行を開始してから、母親は夕ご飯に出来るだけ簡単に食べられて栄養のある物を用意してくれるようになった。なかなか口に出しては言えないが、とっくの昔に気付いて心の中では泣きそうなくらいに感謝している。だから、早く。家に。
彼女の足が止まったのは、ベンチの前だった。そのまますとんと腰掛ける。ああ、こんなにも疲れきっているのに。何でここに来てしまったのだろう。自問に自答は返って来ない。頭の良い彼女にはわかる。こういうときは糖分が足りていないのだ。糖分を補給してから帰ろうか。まだ甘味処は開いている時間だ。だが懐が心許ないことを思い出す。今日の予定は師匠との修行。それだけであった。わざわざ財布を膨らませておく必要がなかったのだ。では他に何か持っていないだろうか。彼女は今日の行動を思い出す。昼と言うには妙な時間に自作の兵糧丸を食べた。そう、確か最後の一粒まで。
「……はぁ」
思わず溜め息が零れた。疲れている身体は、一度座り込んでしまうと立つことすら億劫だ。でもまさかここで一晩を明かす訳にはいかない。風邪を引く可能性があるし、何より、自分が一度このベンチで「寝かせられていた」ことを知っている人達の耳に入れば、精神状態を心配されるだろう。
「……帰ろう」
自分の両足を見つめながら、活を入れる為にわざと口を動かした直後。彼女の頭上に影が差した。
「っ!?」
気を抜き過ぎだ。こんなに近付かれるまで気付かないなんて。ばっと顔を上げる。――と、そこには見知った気の抜ける顔があった。
「サークラ、」
「……カカシ先生……」
どうりで殺意も何も感じなかったはずだ。一気に脱力したサクラの左隣に、カカシはゆっくりと腰を下ろした。
「どーしたの? こんなところで」
「……どうしたんでしょうね、ほんとに」
誤魔化しではない。先述の通り、彼女は自分がなぜここにいるのか、本当にわかっていなかった。
「そうとう疲れてるでしょ」
「あはは、今までまともに体力作りしてなかったツケが回ってきてますから」
乾いた笑いが漏れる。自虐でも何でもなく、事実だ。カカシはサクラの死角になっていた左手を掲げた。見ると、サクラのお気に入りである甘味処の紙袋。
「え?」
「あげる」
そのまま自然とサクラの膝の上に移動した紙袋からは、ほのかに甘い匂いがした。
「……え、でも先生、」
「誕生日おめでとう、サクラ」
にこり。笑われて思い出す、今日の日付け。三月の、二十八。
「あ、そうか、今日って私の……」
びっくりした。心底びっくりした。まさか自分の誕生日を忘れるだなんて。本当にそんなことがあるのだ。あまりに毎日が充実し過ぎていて、今日という日に特別な意味を持たせる必要がなかったせいだ。
「忘れてたの?」
「はい。今の今まで」
「それだけ、頑張ってるって証拠だな」
ぽんぽんと頭を撫でられる。いつもならセクハラですよとからかったかもしれないが、今はその心地よさを享受していたかった。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
「今食べてもいいですか?」
「もちろん」
がさり、耳に優しい音を響かせながら紙袋を広げる。お団子と、竹水筒。今まさに欲していた物がそこにあった。
「いただきます」
「どーぞ」
買って来たばかりなのだろう。竹水筒の中の御茶も、お団子も、まだ暖かかった。一口、一口、食べ進めるごとに、頭の中がはっきりしてくる。立ち上がって家まで歩くのを何の苦にも感じなくなってくる。何より、幸せな気分になってくる。
頭が回り出すと、今日が誕生日だと気付かなかった要因が他にもあることにも思い当たった。自分の誕生日を把握している人と出会わなかったのだ。サクラが朝食を食べ家を出るとき、父親はまだ夢の中だった。母親はゴミ捨てに行ったついでにご近所さんと立ち話でもしていたのだろう。家には居なかった。親友であるいのは里の外に出て任務の真っ最中だ。アカデミー時代から何だかんだ祝ってくれていたナルトは、まだまだ里に帰ってくる気配は無い。ほぼ一日中一緒に居た師匠は自分の誕生日など知りもしないだろう。なるほど、自分が意識していなければ気付かないという事態は起こりうるのだ。
自覚は無かったが、お腹が空いていたのだろう。団子はぺろりと食べてしまった。ずっと音を立てて御茶も飲み終える。
「ああ美味しかった!」
「それはよかった」
隣でカカシがにこにこと笑っている。ナルトの全てを包み込む笑顔とはまた違うが、庇護下にある者を安心させる笑顔だとサクラは思う。
「ありがとうございます、元気が出ました!」
「家まで送ろうか?」
「あはっ、何言ってるんですか! そんな子供じゃないですよ私。それに先生も忙しいでしょ?」
「ん、まぁね。この後も五代目に呼ばれてるんだけど」
「えっ、早く行かないと怒られますよ!?」
「うん。でも、ま! サクラの誕生日を祝う方が先でしょ」
ね、とカカシがまた笑う。師匠の恐ろしさを身を以て知っているサクラからすれば、どう考えたって師匠との用事を先に済ませるべきだ。カカシと自分とでは根本的に考え方が違うのだろうか。いや、今はただ、自分を優先してくれたことに感謝すべきだろう。
「ふふ、怒られても私のせいにしないでくださいよ?」
「しないよ、大丈夫」
もはや西日と言うにも暗い空。だが里の中心部に目を向ければ、ぽつぽつと点いた明かりが里全体を穏やかに見せていた。サクラは空になった竹水筒を紙袋に入れ直し、カカシに押しつけて立ち上がる。つい数分前までが嘘のように身体が軽かった。
「夕食前にそんな物食べちゃったことがわかったら親に怒られるから、カカシ先生が捨てて来て下さいね、それ」
「はは、りょーかい」
「それじゃ先生、ごちそうさま!」
「うん、またね」
数回だけ手を振って、サクラは家まで駆けた。あうんの門が、かつて一晩を過ごしたベンチが、ぐんぐん遠くなる。
何でここに来てしまったのだろう。彼女は数分前の自問を思い出した。糖分を摂取した今でも、明確な答えは出せなかった。ただ、もしかしたら、身体は誕生日を覚えていたのかもしれなかった。祝って欲しかったのかもしれなかった。
――誰に?
「ただいまっ」
振り払うように玄関のドアを開けた。まだ、通常のテンションでその名前と向き合うには時間が必要だった。でも、きっと、いつか必ず。
リビングからは、ご馳走とケーキの、甘い香りが漂っていた。
・終わり・
日付け詐欺ですすみません盛大に遅れましたが祝いたかった。
サクラちゃん誕生日おめでとう!!
一部と二部の間です。カカシ先生とサクラちゃんしか出てこないよ!
カップリングのつもりはないけどカカサク好きが書いてるので一応注意。
いつもの原作最終話完全無視シリーズじゃないのでそこは大丈夫です。
サクラちゃん誕生日おめでとう!!
一部と二部の間です。カカシ先生とサクラちゃんしか出てこないよ!
カップリングのつもりはないけどカカサク好きが書いてるので一応注意。
いつもの原作最終話完全無視シリーズじゃないのでそこは大丈夫です。
春野サクラは多忙であった。任務に修行。家事手伝い。ほんの少し前までは生活の一部であったオシャレや甘味に掛ける時間が見つからない。しかしこれもまた、ほんの少し前までの自分には考えられなかったことであろうが、不思議と苦痛ではないのである。もちろん大変は大変だ。伝説の三忍である師匠の言葉は厳しく、基礎体力からして明らかに足りていなかった彼女にはキツイ稽古とお叱りの連続。だが頑張れた。元々チャクラコントロールだけは人並み以上だと褒められてきたのだ。精密さを求められる修行で音を上げずにいられたのは、知人の励ましや己の決意もさることながら、やればやるだけ成果が目に見えたのが大きかっただろう。
そんな彼女は、今、ふらりとあうんの門へ近付いていた。日は傾いていて、橙色が目に眩しい。今日の修行はつい数分前に終了したばかりだ。体力は底をついている。こんな日は家に、延いてはお風呂場に直行するべきだ。師匠との修行を開始してから、母親は夕ご飯に出来るだけ簡単に食べられて栄養のある物を用意してくれるようになった。なかなか口に出しては言えないが、とっくの昔に気付いて心の中では泣きそうなくらいに感謝している。だから、早く。家に。
彼女の足が止まったのは、ベンチの前だった。そのまますとんと腰掛ける。ああ、こんなにも疲れきっているのに。何でここに来てしまったのだろう。自問に自答は返って来ない。頭の良い彼女にはわかる。こういうときは糖分が足りていないのだ。糖分を補給してから帰ろうか。まだ甘味処は開いている時間だ。だが懐が心許ないことを思い出す。今日の予定は師匠との修行。それだけであった。わざわざ財布を膨らませておく必要がなかったのだ。では他に何か持っていないだろうか。彼女は今日の行動を思い出す。昼と言うには妙な時間に自作の兵糧丸を食べた。そう、確か最後の一粒まで。
「……はぁ」
思わず溜め息が零れた。疲れている身体は、一度座り込んでしまうと立つことすら億劫だ。でもまさかここで一晩を明かす訳にはいかない。風邪を引く可能性があるし、何より、自分が一度このベンチで「寝かせられていた」ことを知っている人達の耳に入れば、精神状態を心配されるだろう。
「……帰ろう」
自分の両足を見つめながら、活を入れる為にわざと口を動かした直後。彼女の頭上に影が差した。
「っ!?」
気を抜き過ぎだ。こんなに近付かれるまで気付かないなんて。ばっと顔を上げる。――と、そこには見知った気の抜ける顔があった。
「サークラ、」
「……カカシ先生……」
どうりで殺意も何も感じなかったはずだ。一気に脱力したサクラの左隣に、カカシはゆっくりと腰を下ろした。
「どーしたの? こんなところで」
「……どうしたんでしょうね、ほんとに」
誤魔化しではない。先述の通り、彼女は自分がなぜここにいるのか、本当にわかっていなかった。
「そうとう疲れてるでしょ」
「あはは、今までまともに体力作りしてなかったツケが回ってきてますから」
乾いた笑いが漏れる。自虐でも何でもなく、事実だ。カカシはサクラの死角になっていた左手を掲げた。見ると、サクラのお気に入りである甘味処の紙袋。
「え?」
「あげる」
そのまま自然とサクラの膝の上に移動した紙袋からは、ほのかに甘い匂いがした。
「……え、でも先生、」
「誕生日おめでとう、サクラ」
にこり。笑われて思い出す、今日の日付け。三月の、二十八。
「あ、そうか、今日って私の……」
びっくりした。心底びっくりした。まさか自分の誕生日を忘れるだなんて。本当にそんなことがあるのだ。あまりに毎日が充実し過ぎていて、今日という日に特別な意味を持たせる必要がなかったせいだ。
「忘れてたの?」
「はい。今の今まで」
「それだけ、頑張ってるって証拠だな」
ぽんぽんと頭を撫でられる。いつもならセクハラですよとからかったかもしれないが、今はその心地よさを享受していたかった。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
「今食べてもいいですか?」
「もちろん」
がさり、耳に優しい音を響かせながら紙袋を広げる。お団子と、竹水筒。今まさに欲していた物がそこにあった。
「いただきます」
「どーぞ」
買って来たばかりなのだろう。竹水筒の中の御茶も、お団子も、まだ暖かかった。一口、一口、食べ進めるごとに、頭の中がはっきりしてくる。立ち上がって家まで歩くのを何の苦にも感じなくなってくる。何より、幸せな気分になってくる。
頭が回り出すと、今日が誕生日だと気付かなかった要因が他にもあることにも思い当たった。自分の誕生日を把握している人と出会わなかったのだ。サクラが朝食を食べ家を出るとき、父親はまだ夢の中だった。母親はゴミ捨てに行ったついでにご近所さんと立ち話でもしていたのだろう。家には居なかった。親友であるいのは里の外に出て任務の真っ最中だ。アカデミー時代から何だかんだ祝ってくれていたナルトは、まだまだ里に帰ってくる気配は無い。ほぼ一日中一緒に居た師匠は自分の誕生日など知りもしないだろう。なるほど、自分が意識していなければ気付かないという事態は起こりうるのだ。
自覚は無かったが、お腹が空いていたのだろう。団子はぺろりと食べてしまった。ずっと音を立てて御茶も飲み終える。
「ああ美味しかった!」
「それはよかった」
隣でカカシがにこにこと笑っている。ナルトの全てを包み込む笑顔とはまた違うが、庇護下にある者を安心させる笑顔だとサクラは思う。
「ありがとうございます、元気が出ました!」
「家まで送ろうか?」
「あはっ、何言ってるんですか! そんな子供じゃないですよ私。それに先生も忙しいでしょ?」
「ん、まぁね。この後も五代目に呼ばれてるんだけど」
「えっ、早く行かないと怒られますよ!?」
「うん。でも、ま! サクラの誕生日を祝う方が先でしょ」
ね、とカカシがまた笑う。師匠の恐ろしさを身を以て知っているサクラからすれば、どう考えたって師匠との用事を先に済ませるべきだ。カカシと自分とでは根本的に考え方が違うのだろうか。いや、今はただ、自分を優先してくれたことに感謝すべきだろう。
「ふふ、怒られても私のせいにしないでくださいよ?」
「しないよ、大丈夫」
もはや西日と言うにも暗い空。だが里の中心部に目を向ければ、ぽつぽつと点いた明かりが里全体を穏やかに見せていた。サクラは空になった竹水筒を紙袋に入れ直し、カカシに押しつけて立ち上がる。つい数分前までが嘘のように身体が軽かった。
「夕食前にそんな物食べちゃったことがわかったら親に怒られるから、カカシ先生が捨てて来て下さいね、それ」
「はは、りょーかい」
「それじゃ先生、ごちそうさま!」
「うん、またね」
数回だけ手を振って、サクラは家まで駆けた。あうんの門が、かつて一晩を過ごしたベンチが、ぐんぐん遠くなる。
何でここに来てしまったのだろう。彼女は数分前の自問を思い出した。糖分を摂取した今でも、明確な答えは出せなかった。ただ、もしかしたら、身体は誕生日を覚えていたのかもしれなかった。祝って欲しかったのかもしれなかった。
――誰に?
「ただいまっ」
振り払うように玄関のドアを開けた。まだ、通常のテンションでその名前と向き合うには時間が必要だった。でも、きっと、いつか必ず。
リビングからは、ご馳走とケーキの、甘い香りが漂っていた。
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